最高裁判所第三小法廷 平成11年(許)39号 決定 2000年3月16日
抗告人
金田治夫
抗告人
前嶋幹生
抗告人
中澤征史
右三名代理人弁護士
吉田亘
相手方
新井守根
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
抗告代理人吉田亘の抗告理由について
滞納処分による差押えがされた後強制競売等の開始決定による差押えがされるまでの間に賃借権が設定された不動産が強制競売手続等により売却された場合に、執行裁判所は、右賃借権に基づく不動産の占有者に対し、民事執行法八三条による引渡命令を発することができると解するのが相当である。けだし、右賃借権者は滞納処分による差押えをした者に対抗することができないところ、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律による強制執行等の続行決定(同法一七条、一三条、九条、二〇条)がされたときは、強制競売等の開始決定による差押えに先行する滞納処分による差押えによって把握された賃借権の負担のないことを前提とする当該不動産の交換価値が、右続行決定後の強制競売手続等において実現されることになるから(同法一〇条一項、三二条参照)、滞納処分による差押えの後に設定された賃借権は、民事執行法五九条二項の類推適用により、続行決定に係る強制競売手続等における売却によってその効力を失うというべきであり、同法八三条一項ただし書の「買受人に対抗することができる権原」に当たるものとはいえないからである。そうすると、本件において、相手方の抗告人らに対する引渡命令の申立てを認容すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官元原利文 裁判官千種秀夫 裁判官金谷利廣 裁判官奥田昌道)
抗告代理人吉田亘の抗告理由
第一、事案について、
一、原決定は抗告人らの大阪地方裁判所がなした同庁平成一一年(ヲ)第五四七七号不動産引渡命令に対する抗告の申立を却下したものであるが、これは踏襲されて来た判例に反するものであり、取り消さなければならない。
二、抗告人らは件外転貸人佐川嘉一が前所有者中央エンタープライズ株式会社より賃借し、それを各抗告人らに転貸していたものであり、これは平成一〇年六月二三日に期限三年間で更新されているものである。
三、他方、本件不動産に対する抵当権者、現株式会社整理回収機構は平成元年一一月二四日受付の根抵当権設定登記(後に平成五年五月七日に追加設定したもの)を了し、平成一〇年一二月一四日に抵当権の実行として、差押登記がされている。
四、従って、右権利関係においては、抗告人らは民法三九五条本文により、短期賃借権が保護されていることは明らかであり、民事執行法八三条一項本文の明渡しの対象には含まれないこと明らかである。
五、しかるところ、件外大阪市中央区役所が平成七年三月九日に、同じく京都市理財局が平成一〇年四月二〇日にそれぞれ差押及び参加差押をなしたものであるが、前記、競売手続が執行され、競落の結果、相手方が買受人となり、本件引渡しを求めて来たものである。
六、処で原審である大阪高等裁判所は大阪高等裁判所平成一〇年一一月二五日の決定を踏襲して、抗告人らの抗告を棄却したものであるが、これは私法上の権利関係を無視し、且つ、従前の判例(東京高裁昭和六二年八月二〇日)に反してまでも、右の如く、解釈して原審決定を維持すべきものではない。
第二、原審の誤りについて、
一、原審は「滞納処分による差押が優先していて、その滞納処分に係る公租公課も競売事件で同時に配当がなされる場合には、滞納処分の差押え時点で換価手続が開始されたと解すべきである」と判示している。
二、しかし、民事執行法第四七条二項は「……、執行裁判所は後の強制競売の開始決定に基づいて手続をしなければならない」と規定しているのであるが、これは正しく、換価手続は先の競売手続にもとづいて、換価手続がなされていることを想定しているものである。
三、そして、本件競売手続は基本事件たる差押えにもとづく、競売の結果、相手方が落札し、買受人となったものであり、それにもとづいて、民事執行法第八三条一項による明渡命令を求めたにすぎないのである。
他方、滞納処分にもとづく公売手続は右売却により、終了するものであるが、これは差押手続の反射的効力により終了したものであり、滞納処分にもとづく、差押手続の効果は潜在的には存しても、一度も顕在されなかったものである。
このように買受人はその効果を享受することが出来ず、法も右滞納処分にもとづく明渡命令は規定されていないのである。
四、以上のように理解して初めて、競売関係における私法上の権利関係の公平が保たれるものである。
従って、抗告人らは民事執行法第八三条一項に基づく、明渡命令に謂う占有者には該当しないものである。